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東京高等裁判所 昭和29年(け)5号 決定

そこで申立人に対する詐欺被告事件の記録を調べてみると、申立人は申立人に対する詐欺被告事件について昭和二十八年九月二十五日甲府地方裁判所において言い渡された有罪判決に対し、当庁に適法な控訴の申立をなし、右被告事件は当庁第一刑事部に係属したのであるが、所定の期間内に控訴趣意書を差し出さないとの理由をもつて、同二十九年二月六日当庁第一刑事部において本件控訴を棄却する旨の決定を言い渡されたことは所論のとおりである。

しこうして右記録には、当庁第一刑事部から受送達者須田駿(申立人)宛の、昭和二十八年十二月十五日を控訴趣意書提出の最終日とする控訴趣意書差出期間通知書及び弁護人選任に関する通知書を、同年十一月二十日午前十時三十分甲府市上石田町三〇二番地において、受送達者が不在なので事理を弁識する同居者の家主新倉美和子に渡した旨の記載並びに右新倉美和子の記名及び押印のある、右同日附甲府郵便局事務員柴田正雄の署名及び押印にかかる郵便送達報告書一通が編綴されている。

所論は先ず本件控訴趣意書差出期間通知書は、山梨県東八代郡御所村米倉七二九番地なる申立人の肩書現住所において送達されなければならない旨主張するのであるが、前掲記録によると、被告人(申立人)の住居は、各起訴状には、山梨県北巨摩郡韮崎町天神二、二九二番地の一とそれぞれ記載され、原審第一回公判期日(昭和二十八年一月三十日)における人定質問の際にも申立人は、住居は起訴状記載のとおりである旨陳述し、その後同年三月二十四日附原審弁護人皆川健夫作成名儀の原審裁判所宛「御届書」と題する書面をもつて、申立人が甲府市上石田町三一二番地新倉美智子方へ転居した旨が原審裁判所に届け出られ、同月二十七日の原審第三回公判期日における人定質問の際には、申立人は、住居を右「御届書」記載のとおり陳述し、その後は原判決の宣告に至るまでその住居を他へ変更した旨の陳述もなければ、その旨の届出もなく、原判決書の被告人の住居欄には、甲府市上石田町三一二番地新倉美智子方と記載されているし、申立人作成名義の控訴申立書にも、申立人の氏名の右肩に、その住居を示す趣旨と思われるが、甲府市上石田町三一二番地と附記され、その後昭和二十九年二月六日当庁第一刑事部が本件控訴を棄却する旨の決定をするまでの間に、申立人が原審又は控訴審の裁判所に対して、刑事訴訟規則第六十二条の規定による送達のための届出は勿論のこと、その他如何なる方法にもせよ、所論のように肩書現住所へ転居した旨の届出ないし連絡をした形跡を認めるに足りる資料は何一つ存在せず、所論現住所と称する山梨県東八代郡御所村米倉七二九番地は、各起訴状並びに申立人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書中に、申立人の本籍として記載されている外は本件控訴棄却決定の郵便送達報告書(昭和二十九年二月二十七日附)の送達場所欄に記載されているに過ぎず、右決定に対する申立人の右同日附書面による問合以後はじめて、申立人の住所として記録に現われて来たものであることが明瞭である。

敍上の経過にかんがみると、たとえ申立人が所論のごとく、既に昭和二十八年十月十一日妻子と共に肩書現住所へ転居し、その後は甲府市上石田町三一二番地新倉美智子方には居住していないとしても、その事実は、控訴審たる当庁第一刑事部には明白でないのであるから、同部が申立人に対し、郵便により控訴趣意書差出期間通知書を送達するに当つては、同部が記録により知り得べき甲府市上石田町三一二番地新倉美智子方を申立人の住所と認め、同所においてそこの居住者であり、同居者と目される新倉美智子に該通知書を交付して、これをなすことができるものと解するのが相当であり、これと反対の見解に立脚する所論は採用し難い。(昭和二十五年(し)第五八号、同二十九年三月二十日第二小法廷決定参照)。(なお本件通知書の郵便送達報告中書類受領者の氏名を新倉美和子と、又送達の場所を上石田町三〇二番地とそれぞれ記載してあるのは、送達吏員の不注意による新倉美智子及び上石田町三一二番地の各誤記と認める。)

所論は次いで、右新倉美智子は本件通知書を受領した事実がない旨主張するのであるが、記録編綴の前掲通知書の郵便送達報告書を点検してみると、右報告書には甲府郵便局事務員柴田正雄作成名義をもつてさきに摘記したとおり、送達に関する事項が記載されており、ことに書類受領者の署名又は捺印欄には新倉美知子の記名(新倉美智子の誤記であることは前記のとおり)下に、明らかに「新倉」と判読できる認印が押捺してあつて、右認印は印影の輪廓、形状、字異等の諸点において、申立人援用にかかる新倉美智子作成名義の証明書(異議申立記録編綴の申立人提出書類たる上申書添附のもの)中新倉美智子名下のそれと同一と認められ、該送達報告書の記載は十分に措信することができるのに反し、右証明書は、新倉美智子が本件通知書を受領したことも、送達報告書に受領の旨署名捺印した覚えもないことを申立人の求めにより証明する旨を記載したものであり、右文面及びその用紙が申立人提出の上申書のそれと全く同種同質に認められることを綜合して考察すると、右証明書は本件異議申立の疎明資料として特に作為的に作成されたものと認めるのが相当であり、到底措信するに足らず、記録を精査しても、新倉美智子が本件通知書を受領しなかつたということを窺うに足りる資料は認め難く、敍上認定に反する所論は採用できない。

所論は更に、右新倉美智子は、申立人のため郵便物を代理受領する権限を有しない旨主張するが、書類の送達について刑事訴訟法第五十四条により準用される民事訴訟法第百七十一条第一項は、送達をなすべき場所において送達を受くべき者に出会わざるときは、事務員、雇人又は同居者にして、事理を弁識するに足るべき知能を具うる者に書類を交付することを得る旨規定し、いわゆる補充送達の方法によることを許している。そこで甲府市上石田町三一二番地新倉美智子方が申立人に対して本件通知書の送達をなすべき場所であることは、さきに説明したところであるし、申立人が右新倉美智子方に住居を定めていた当時(記録及び申立書によれば昭和二十八年三月二十四日から同年十月十一日までの期間)新倉美智子が申立人の家主で、申立人とは同居者の関係にあつたこと及び本件通知書の送達が行われた同年十一月二十日午前十時三十分現在においては申立人は現実には右新倉方には居らず、従つて送達吏員たる甲府郵便局事務員柴田正雄が右送達をなすべき場所において送達を受くべき者たる申立人に出会わなかつたことは、いずれも申立の全趣旨に徴し明らかであり、又右新倉美智子が事理を弁識するに足るべき知能を具うる者であることは、同人がその名義をもつて前記証明書を作成し、これに署名捺印していることに徴し、十分に窺われるところである。しかも前掲民事訴訟法第百七十一条第一項に定められた補充送達においては、書類の交付を受くべき事務員、雇人又は同居者は、送達の受領に関し、送達を受くべき者、すなわち送達受領者の法定代理人たる地位を有するものであり、両者間には一般的にも、また個別的にも送達の受領に関し、契納による委任関係のあることを必要としないものと解すべきであるから、右新倉美智子は、申立人の同居者として、申立人に代り本件通知書の送達を受領する権限を有し、同人の書類受領はすなわち申立人への送達の効果を生ずべく、これと反対の見解に立脚する所論は採用し難い。

なお所論は、仮りに右新倉美智子が申立人に代つて送達を受領する権限を有するものとしても、送達の当時同人と申立人との間には、権限の基礎となるべき同居者の関係が消滅しているのであるから、現実に申立人が書類を受け取らない限り、申立人に対して送達の効力を生じない旨主張するので、この点について按ずるに、たとえ所論のとおり本件通知書の送達(補充送達)の当時新倉美智子と申立人との間には、現実に同居者の関係がなく、申立人が現実には本件通知書を入手していないとしても、既に説明したり、本件通知書を送達するに当つては、甲府市上石田町三一二番地新倉美智子方を申立人の住所と認め、同所において申立人の同居者で、事理を弁識するに足りる知能を具うる者と目せられる家主新倉美智子に該通知書を交付してこれをなすことができ、右のとおり送達が行われたことは、その送達報告書に徴し明白なところであるから、所論のような事由で申立人が本件通知書の送達されたことを知らず、これがため所定の期間内に控訴趣意書を差し出すことができなくなつても、それは申立人がほしいままに住居を転じ、所定の手続をなすことを怠つた結果に由来するものに外ならず、裁判所の措置には何等間然するところはないのであるから、その不利益は申立人自からこれを甘受すべきが当然であり、所論指摘の事由は未だもつて本件通知書の送達の効力を否定する根拠とはなり難く、送達は適法且つ有効に行われたものというべく、本段所論もまた採用に値しない。

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